1.片葉ヨシ伝説
私は筑後川の下流域の漁師町で生まれた。目の前は悠々と流れる筑紫次郎、川向うには大野島。漁師町と言っても大型の漁船はなく、有明海へ海苔摘みに繰り出す機械船と、それよりずっと小ぶりな元式船(こんな漢字を当てるかわからないが、爺ちゃんたちはゲンシキ、ゲンシキと言っていた)が川を行き来し、船はアラコと呼ぶ簡素な船着場に停泊していた。
河岸の干潟に生い茂るヨシ(葦)の群落。夏は青々と茂り、葉先は鋭利な刃物を思わせた。そのヨシの中に「片葉ヨシ」と呼ばれるミステリアスな種があることを知ったのは中学生の頃だったと思う。ふつうのヨシは、干潟からスックと茎が伸び背丈が2メートル位になり、茎から出た葉は右、左、右、左と交互に連なる互生である。
ところが、群落するヨシ原の中に人ひとりが通れるくらいの道があり、その道の右側に生えるヨシの葉は右側だけ、左側のヨシは左側だけにしか葉がない。つまり道の中央側には葉がなく、通路がきれいに確保されているというのだ、このヨシを片葉ヨシと言い、私も友だちと何度か捜索を試みたが、見つけることができなかった。
伝説によると、片葉ヨシでできた通路こそ、あの徐福さんが通った道だという。徐福さんといえば、「東の国に不老不死の薬があります」と中国の始皇帝に進言して不老不死の仙薬を探しに日本へやって来た男である。果たして仙薬が見つかったかどうかはわからない。大人になって知ったのだが、徐福伝説はなにも私の故郷だけではなく、全国津々浦々に残っている。片葉ヨシも故郷の専売特許ではなく、いろんな地域で発見されている。
情報化が進むと、未知のロマンが失われていく。残念!
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